南ゆうこ yuko minami

運命とは 旅立つことである
運命とは よけりゃよいほど良い
運命とは 体を洗わないことではない

‐今日は体を洗いたくなかったのかな

|子どもと言葉|

古いタバコ屋さんを改装した雑貨屋が目に留まり入ると
きらきらした懐かしいものがあふれてとてもカラフル。
その中でまっしろのウサギの爪切りが目に留まり購入。

娘に見せたら「わー かわいい うさぎさん」
息子に見せると「ちょっと凝りすぎ」 

ピンクの目がきょろきょろ動くプラスチックの白うさぎ。

爪を切るとよく切れる。
ぱちぱちとよく切れる。
切った爪は背中から出る作りなのに、逆さにしても出ないので
仕方がないから口から吐き出す。

「ちょっと、爪を喰われてる気分になる」と娘が言う。
「ホラーじゃない?」と息子が言う。

言われてみると、白うさぎのピンクの目はどこか視点が合ってない。

ホラーであっても
かわいい 白うさぎ。



目の見えない
くじらがいました
くじらは聴いた

星のこえ
風のことば
虫の寝言まで
くじらは聴いた

唄にならない
唄まで聴いた

|木のそばで|2014年より

今日のごはんにおばけがいる

食欲をとってしまうおばけ
食べたきおくをなくすおばけ 
 でも、おなかはふくれてる

ひとつめのおばけは3人くらい

食べたいのに、おはしを持たせてくれない

食べたいのに、口がつかない

なんでだろう 

なんでだろう

‐なんでだろうね

|子どもと言葉|

ちいさなこどもと
ねこのねむるへやで
夜はまるくなる

ひとのいとなみも
おおきなまるのなかに

一生おなじ歌を 歌い続けるのは

だいじなことです むずかしいことです

あの季節がやってくるたびに

おなじ歌しかうたわない 鳥のように

ソナチネの木 / 岸田衿子 より

100年の間にどんな歌をうたってきたんだろう

娘がオルガンに名前をつけてくれた。

「百年草」

ありがとう

やすらかさとは 懐かしさである
そのなかでひとは 何かを手放せる

ほんとうは 手放したくて
出会っていた

手放すために
狂おしく 愛していた


なつかしさ「ひかりのなかのこども」より/稲尾教彦

今年、詩人で語り研究家稲尾教彦さんの10年ぶり2作目の詩集「ひかりのなかのこども」が
うまれました。
6月に行われたのりへいさん(稲尾さん)とのふたつの朗読会では、この新しい詩集の中からひとつ読ませていただきました。

忘れてはいけません
近所の洋品店で買った素敵な青い体操服

忘れてはいけません
だれにもおすすめしなくても
思わず膝を抱えて胡坐を組みながら聴きたくなる
ガ と グ しか思いつかず
それっぽい言葉をすっ飛ばして
だいっすき また来ますって言ってしまう 
骨まで震える小さなライブ

忘れてはいけません
先生にバツをつけられるねんな
でもそれが楽しいと思うんでしょ 字のあそび

だれかの素敵は
じぶんの素敵とちがうこと

そこに眠る
ちいさな宝石

むかしむかし
初めて中国に行ったころ
トイレにドアはなかった

ほんとなの?
まるみえじゃないか

ないものはなかった。

インドに行ったとき
それはそれは
摩訶不思議だった。
わけがわからない
わたしひとり逆立ちしてるような気分

もしくは逆か。

どこだったか
ミイラ博物館には村で亡くなった人たちのミイラ

つまり、これはお墓なのかな。

せかいは
あべこべなところだった

でも、本当は自分の知らないせかいというだけ。

そしたら 
ここの人たちは
どんな視線で生きてるんだろうと思った。

帰ってきたら
私たちの住んでる日常もまた
あべこべに思えた。

思ってる以上に
せかいは
あべこべだった。

ずっと以前、ピンクの猫を描いた。

ピンクの猫なんていない
そんなのいるわけないよ

どうかな
いるかもしれないよ

もらわれていった
ピンクの猫を思うとき
自分が少し温くなる。


子供は子供だった頃

腕をブラブラさせ

小川は川になれ 川は河になれ

水たまりは海になれ と思った


子供は子供だった頃

なにも考えず 癖もなにもなく

あぐらをかいたり とびはねたり

小さな頭に 大きなつむじ

カメラを向けても 知らぬ顔


ベルリン・天使の詩から
“子供は子供だった頃”.

詩.Peter Handke
映画監督:Wim Wenders

好きな詩


眠る蓮の夢
深い眠りの底

水底に広がる
透明の空

波紋の音も 届かぬ静けさ


言葉にすることでわかりあえることがあります。
声を使うことでしか伝わらないことがあります。
けれども言葉や声の背後から感じられる、人がそこにいるだけで一緒に振動するもの。
どんな気持ちで生きてきたのか。言葉ではなく実際に会うと無意識に感じ取ることができるもの、そういったものに安心や温もりを覚えることはないでしょうか。わたしたちは、無数の人たちに直接的に間接的に支えられ、その見えないつながりの糸に疲弊しながら渇望もし、人は人のなかで影響しあって生きています。
「人が言葉に表しえないものに耳を傾けようとする」
ひとつひとつの公演を通して人と関わるなかで、また作品を通して、他者にも自分のなかにも耳を澄まそうとした10年間でした。コロナ渦でつながりを断たれた期間を経て、AIの時代になっても人間にしかできないことはこういうことではないでしょうか。

みなさまの心が休まるような時間になればと願っています。

「ちいさきもの、その祈り」に関わってくださった方々にお礼申し上げます。
足をお運びくださった皆さま、ありがとうございました。

ちいさきもの、その祈りvol.2
―詩と物語でつなぐ はるかな湖- 公演に寄せて