南ゆうこ yuko minami

冬の雨

昨日の一歩は軽かったのに

こんなに一歩が重いなんて

歩き続けたら 

晴れの日には見られない景色に出会えるんだろうか

冬の朝
猫がもどす 
背中の向こうに白い湯気

生きてる

ふたつのせなか
机に向かう

交わらない平行線

気配のあたたかさ

花が咲いた

冬に聴く 

子守歌のような花が咲いた


遠い昔に聴いた うた

朗読

ぶつぶつ 

もぐもぐ もぐもぐ

言葉を食べる

ぬるっとした感情をいったん置いて

そのうちやってくる  

かもしれない

あ    

おいし

という瞬間のために

冷たい床に寝ていた猫が

ソファーにまるまった日

秋が 一歩すすんだ

おはよう 朝

近くで鳥が鳴いてる

猫が それを目で追う

細いひげ 光ってる

いつもの朝

手を止めると


美しいものが そこにも ここにも 

転がってる 聴こえてくる


でも 立ち止まらないと 

ささやかすぎて拾えない

額に映り込む 朝のひかり
こどもの小さな温かい手
猫の足音
白く揺れるやかんの湯気

ちいさく 
ふるふると
心をゆらすものたち

ささやかなものが 日々を支える